TOMINTOUL |
さり気なく・・・ 繰り返されていく そして,人と人が 微かに,繋がっていく ささやかな願いも, きっと,繰り返されていく 今日は,土曜日. 僕は,オフィスに,ひとり. 仕事は順調・・・夕方には,終わる. 今朝,天気予報を見ながら, 一昨日,借りた傘を バーに返しに行くと,決めていた. あの夜,飲んだモルトの柑橘系の香りが甦り, 胸の中で,優しく露を結ぶ. 予報通り,六時を過ぎると, ゆるやかに,雨が降り始めた. 僕は自分の傘をさして, バーで借りた傘が,濡れないように抱えて 歩き始めた. 僕の予想外に,カウンターには, 既に,数人が静かにグラスを傾けている. 僕は席につく前に, バーテンダーに礼を告げ,傘を手渡した. 店内には,偶然か, 僕がオフィスで聴いていたものと 同じ音楽が流れている. 「僕もこれ,好きなんですよ」 僕が空中で、指を小さく動かすと, 「そうですか,うれしいですね」 バーテンダーは,CDケースを僕の前に,置いた. さり気ないということは, まるで,星野光・・・ 夜空を見上げ,子供のように, 好きな星を探すことも,同じ. 「このあいだと同じモルトを」 僕は,一昨日と同く,トミントゥールを頼む. 「お気にめしていただけましたか?」 バーテンダーは,僕の返答を気にしないままに, いつもと変わりなく,モルトを注ぐ. 先程,僕が返したブルーグリーンの傘は, 会計をして,帰ろうとしている男性へと, 手渡された. さり気なく,繰り返される黙契. 雨が降っていても.星の輝きは, 雲の上で,約束されている. 夕刻の雨も,今夜は, いとおしく感じる. トミントゥール 食前酒にもふさわしく,ソフトで飲みやすい. リキュール系の甘さがある.加水すると, 柑橘系のフルーティーな香りがして,さわやか. ゲール語で「納屋の形をした丘」 |