THE GLENLIVET
 

春の風は
頬に優しい
目を綴じ,胸の中を静かにして
季節が変わる瞬間に立ち止まる

季節は廻るもの
そして,時に待つもの


金色の花の薫りを思わせるモルト,
ザ・グレンリベット.
切れ上がりのある余韻が
胸の中を透明にする.

優しい春の風を感じながら,
僕はあちらこちらに咲く花々に気をとられつつ,
この店まで歩いた.
今夜は偶然にも,店の中も数箇所,花が活けてある.

「季節に相応しいモルトですね」
僕が選んだザ・グレンリベットのボトルを
バーテンダーは手にした.
金色のラベルが美しく輝く.
「花やぐ季節ですね」
バーテンダーの言葉がいつもよりも陽気に感じる.

人との出逢い,出来事の起こる瞬間,
偶然のこと,
季節のように廻っている.

花の季節を待つ人のように
静かに,でもしなやかに,
いとおしい人を,唯一の出来事を
ゆたかに待ち続ける.

偶然の出来事はない,
それは気がつかないでいる胸の深いところで
待ちわびていたことに違いない.

モルトの花やぐ薫りは,
胸の中を透明にして,
待ちわびている人のことを浮き上らせる.

季節が廻るのは偶然ではない,
待ちわびている人は,唯一,一人だけであるように.