SCAPA |
人との出逢いと同じように 酒にも出逢いがある できることなら いつまでも共に 穏やかな心持ちで 人生を味わいたいと思える そんな酒と出逢うことは 人との出逢い以上に 言葉では 語れない優しさがある 「酒の味を言葉で表すものではない」 父が語っていた言葉だ. 若い頃は、その意味がよく解らなかった. 今も,それほど解っているわけではないのだが・・ 数ヶ月前に出逢ったモルト, スキャパを飲んでいると, ふと,その父の言葉を思い出した. スキャパはその殆どが, ブレンド用につかわれていると, この店のバーテンダーから聞いた. 多くのモルトとブレンドされているのだから, きっと僕も今までに何度も回り逢ってはいるのだろう. オフィシャル・ボトルを飲んでいると, 穏やかな心持ちで酔える・・・ それは,とても幸せなことだ. 「スキャパ湾は,戦火の激しさで 知られているけれど・・・」 珍しくバーテンダーから語りかけてくれた. スキャパの生まれる蒸留所は大戦時の熾烈な戦火で 知られるスキャパ湾を見下ろす所に位置する. 「とても甘い香りで,戦いとは無縁の印象ですよね・・ だからとても印象に残っています」 彼はスコットランドを旅している. モルトの味と香りの中に佇むと, そのモルトの生まれた所の情景が 浮かんでくるのだろう・・・ 僕は時に辛かったことを, 甘い色合いで思い出すことがある. 出来事の現実とはかけ離れた色味を帯びた その映像をスキャパの味と香りの中に, 重ね合わせることができるような気がした. 今夜は,いつもより少し客足も少ないから, バーテンダ-も話相手になってくれそうだ. 金色に輝くスキャパと共に このカウンターで過ごす安逸なひととき・・ おっとりとした,グラスと氷が奏でる音・・ ふいに父の声を感じ,気持ちが緩んだ. 「酒の味を言葉で表すものではないと, 昔,父が言っていたことを思い出すよ」 僕の言葉に,バーテンダーは微笑んだ. 言葉で伝えられない僕の心情を バ-テーンダーはきっと分かってくれたに違いない. |