MANNOCHMORE
 

言葉を交わして
わかり合うよりも
もっと,大切な繋がりがあると
信じたい

世間で自信をなくしたときには
なおさら

遠い人を見つめている感じだ



言葉を組み合わせて,
うまく切り抜けていく人との関係だけが続いていると
時々,たまらなくなる.

胸の中で,
大切にしていることが急に崩れる瞬間がある.
言葉では表せない,
かけがえのない想いが.

「どうしたんですか? 今夜はいつもと違う飲み方ですね」
バーテンダーが,僕に珍しく窘めるように言った.
僕は今,確かに飲みすぎにやや近付いている.
でも,やめる気にならない.
もっと,少なくとも今以上に,
意識を遠くに飛ばせるなにかを切望している.

「この店では初めてのモルトです」
バーテンダーが,そう言って僕の前に
モルトを一本,置いた.
「マノックモアといいます」
透き通るモルト,向き合うとその真新しさが眩しい.
新しいモルトをバーテンダーは
僕に初めの一杯を注いでくれた.

「酔って遠くにいくよりも,
   今の自分を透かしてみたほうが気持ちがいいですよ」
バーテンダーは,静かに言った.

やわらかく,真新しいモルト.
凛とし,静謐.

透明であることは,
瞳で確認できない現実,
見えていないことを
言葉以上の永遠性として教えてくれる.

まだ,めぐり逢っていない
誰かを近くに感じることができる.



マノックモア
 スペイサイドモルト.オフィシャル・ボトルの中では一番、
 色が薄くレモンの水のよう.香りも若く明るい感じ.
 ゲール語で「大きな丘」,蒸留所南のマノックヒルから
 名付けられたものらしい.