MACALLAN
 

スタンダードをじっくり
味わうことから
少しだけ距離をおいていた

けれども
今年はスタンダードからはじめてみよう
そんなことを思えるようになった自分は
少しだけ成長したのだろうか
それとも,まわりくどい毎日に
別れを告げたいのかもしれない


「最後はマッカランになさってみては如何ですか?」
 カウンターで次のモルトを選んでいると,
 バーテンダーが,そうすすめてくれた.
「あまり召し上がっていらっしゃらないようなので」
 バーテンダーは,実に記憶がいい.
 僕は,めったにマッカランを頼まない.
「時には定番もいいですよ」

 僕はすすめられるままに注文した.
 そう,時には定番もいいかもしれない.

 確かに僕はいつも,
 多くに知られていないモルトを選んでいる.
 その方が落ち付く.
 そして,なにか安心できる.
 モルトのことが,とても分かったような気分になれる.

 バーテンダーは,ゆっくりとマッカランを注ぐ.
 それはそれは,とても丁寧に.
 そして,マッカランを僕に差し出す.
 グラスが揺れるたび,
 芳醇なモルトに頬が熱くなる.

 定番を選ぶことは,なにか
 気恥ずかしいような気がしていた.
 いや,本当は違う.
 僕が生まれてはじめて飲んだモルトは,
 実はマッカランだった.
 モルトのことがなにも分かっていなかった頃のことだ.
 だから本当はその時の記憶が甦ると,
 ただ,気恥ずかしいだけなのかもしれない.

 そして,このモルトの選び方は,
 僕自身の抱えている出来事にも
 深く関っているのかもしれない.
 そんな気もする,
 もっと,シンプルでいいのかもしれない.
 今年はスタンダードから,
 はじめよう.