HILAND PARK
 
お気に入りのウィスキーは
僕の心を落ち着かせてくれる
穏やかな時の中で
ふと、昔に観た映画のワンシーンが
甦る
忘れかけたストーリーを思い出しながら
僕はグラスを傾ける


今夜は、なんとなく、ひとりで飲みたいと思った。
なにかひとりで、深く考え事をするわけではなくて、
むしろ、頭の中をからっぽにしたかった。
一度、からっぽにして、そこから浮んでくることを
ゆったりと眺めたり、辿ってみたい、
そう思った。
日常の合間に、そんな贅沢ができるのは、
あまり、人が多くない時間帯のバーのカウンターに限ると
僕は思っている。
店内の音楽も、他の客もほどほどで、
むしろ、あまり静か過ぎるよりも、
心地よくひとりを味わうことができる。
バーテンダーには、申し訳ないが、
僕がそう願ってカウンターで飲んでいる時に、
この店が客で込み合うことは、殆どといってない。

まずは、ジントニックで渇きを潤した。
そして、そう次に頼むものは、決まっている。

「ハイランド・パークをロックで」
気がつくと、バーテンダーは、すでに棚から
ハイランド・パークの瓶を下ろしていた。

僕は、このモルト・ウィスキーが好きだ。
味と香り、そしてこの琥珀色が。
すべてが、しっくりとくる。
まろやかな味が、思い通りに僕のなかに広がりはじめる。
そして、願っている通りに一度、些細な日常の感覚が遠退き、
やがて消え去る。

目を閉じて、音楽に耳を傾け、肩の疲れをとる。
メロディーラインを追いかけていると、
ふと、昔に観た映画のシーンが甦る。
学生時代に観た映画だ。
フルカラーで観た洋画のはずだが、なぜだか、
すべての場面が琥珀色に染まっている。
白黒ではない、琥珀に染まっている・・・
せつなくなるほどの美しいスクリーンだ。
僕が好きなハイランド・パークの琥珀色だ。

僕は、ストレートを注文して、
再び目を閉じた。
ディスクがちょうど、終わってしまったが、
バーテンダーはもう一度、同じディスクを一曲目から
かけ直してくれた。
僕の前でチェイサーのグラスを置く音が微かに聞こえた。
僕は暫く、目を閉じたままで、
琥珀色のスクリーンを観ていることにしよう。
身体の中心まで、ハイランド・パーク色に染まるまで。
そして、映画のストーリーの暗流を辿り、
心地よい孤独に心が満たされるまで。