GLENKINCHIE
 

ときに,
人をとても信じてみたいときがある
いつもではない
いつもそんなことを思っていたら
淋しくなるから

人を信じるときは,
目をとじて,目の前に清水の湧く泉を
思い浮かべる



久しぶりにゆっくりと時間をかけて,
カウンターで過ごす時間ができた.
店は静か.
ちょっと静かすぎて困っている.

最近,この店で知ったモルトのひとつ,
グレンキンチーをストレートで飲んでいる.
薄いゴールド,透明感のある美しいモルト.
あまり酔いたくない時にと,以前,
バーテンダーに勧められた.

特別,胸を衝くような出来事があったわけではないが,
今夜は,実は胸がしんと痛い.
透明感のあるモルトは,
僕の痛みを外側からゆっくりと優しく包んでくれる.
不透明な視界の中で,
道案内のような繊細な香りと味わい.

「どうかしましたか?」
バーテンダーがほほ笑んで僕に言う.
「なんだか・・
    今夜はとても穏やかな表情をなさっているんで」
静かに僕のグラスにグレンキンチーを注いでくれた.

人を信じてみたいから,
本当はいつも泉から湧く清水の流れを道案内に
遥か遠く限りなく,その行方を辿ってゆきたい.
広い世界をも信じてみたい.

時に疲れたならば,水の源,泉に戻り
両手で輝く清水を掬ってみる.
人を信じる力が指先から甦ってくるにちがいない.