GLENFIDDICH
 

僕の場合
はじまりは、グレンフィディックだった
出逢いは、星空を仰いで夢を語り
目を閉じて、
その輝きを心のなかに刻んでいた頃

グレンフィディックの香に包まれて
Teen-ageの懐かしいヤツラ、
そして僕が過ごした
星の時間を手元で感じていると
心の深いところで
夢は光彩陸離のごとく甦る



世界で最も飲まれていると、
語られているモルト、グレンフィディック.
僕が初めて飲んだモルトは、
今夜も限りなく多くの人達のグラスの中で、
輝いているに違いない.
カウンターに座る僕の前で、
ボトルはグリーンの光彩を放ち、
そして、僕の手元でも、今
グラスという星のような器の中で輝いている.
 この店のカウンターで、
 僕はいつも独りで
 このモルトと過ごしている.
 けれども、独りでいても
 独りきりではない.
 グレンフィディックの優しさと若さが、
 僕を夢の起源へと誘い、
 懐かしい友のように、
 語りかけてくれるから.

そう言えば、数日前から読み始めた本に、
とても印象的な綴りを見つけた.
・・・誰の一生にも、どれほど不幸な人の人生にも、
   その人なりの美しい瞬間、いわゆる星の時間が
   きっと一度や二度はあったにちがいない・・・※
その時、僕の目の前で、
-星の時間-という文字だけが浮動した.

 グラスを置くと、氷がカタリと音をたてた.
 僕はゆっくりとグラスを差し出す.
 バーテンダーがグラスを手にすると、
 氷は、もう一度、カタリと音をたてた.

 バーテンダーが注ぐ、グレンフィディック、
 その美しい瞬間、ふいに僕の心は浮動する.
 遠く感じていた星、それが、
 羨望だけではないと感じられる.

星の時間
それは、まるで夜空に浮かぶ自分だけの
夢の星座を辿るひととき・・・
人は自分次第、決して
星の輝きを失うことはないと信じていたい.
 

     ※----霜山徳爾著作集6 より