GLEN SCOTIA
 

真に好きな人は
そんなに出来るものではない
けれど,それは一瞬のうちに決まり
永続的な想いとなり得る

その人が自分を好きになってくれるかどうか
それは然程,問題ではない
けれど,もし,
こちらを振り向いてくれたならば
大切にしたいと思う


酒と人は
並べて考えるべきものではないかもしれないが
僕は心底,好きになった酒は,
実はとても少ない.
けれど,
その出逢いを立ち所に思い出せる・・・
そういう酒,そして人との付き合いを
とても,いつくしんでいる

「グレン・スコシアを」
僕がそう頼むと
必ず,いつも同じストレートグラスを
バーテンダーは選んでくれる.

初めてモルトを飲んだのは,この店のカウンター,
そして,その時に選んだモルトが,
グレン・スコシア.

「あまり目立たないモルトなんですが・・」
バーテンダーは,僕がグレン・スコシアを選んだときに
そう紹介してくれた.
「そこが,いいと思いませんか?」

数多く並んだボトルの中で,
僕はグレン・スコシアを選んだ.
ボトルの色合いは,モスグリーン,
ラベルの絵柄が,
僕のスコットランドの憧憬,そのものだった.

永く付き合っていく酒が,
自らの夢の道先案内人のように
思える.

グレン・スコシアの柔らかく
温かみを感じる甘味は,
身体の芯から
少しずつ僕の身体全体に緩やかな暖流のごとく
伝わっていく.

「グレン・スコシアは
     甘さと辛さのバランスがいいんですよ」
バーテンダーが二杯目を注ぎながら呟いた.