DALWHINNIE
 

卒業式の季節
春一番が通り過ぎ
空を見上げると
思わず
涙が出そうになった

春,胸の中を通り抜けていく風が
この季節の変化が真新しいものだと
毎年,必ず,
気付かせてくれる

僕は,風に乗ってみたい



街の中で,行き交う卒業生を見かけた.
多分,あの姿は僕の卒業した高校の卒業生.

母校の前を通った帰り道,バーのカウンターに座ると,
「今日は新しいモルトが入っています」
バーテンダーが,モルトの瓶をカウンターに置いた.
瓶の型がゆったりとしていて存在感がある.
「山の雪解け水で仕込んだモルトですよ.
           今の季節に相応しいのでは?」
美しい水の輝きを感じ,胸の中が澄み渡ってゆく.

モルトの名は,「ダルウィニー」
ゲール語で「集結場」もしくは「中継所」という意味らしい.

僕は,日常の出来事が無意味に感じた時,
ひたすら車で街を走り回る.
そして気が付くと今日の様に,学生時代,通った道を辿る.
その時間はまさに,
生きることに彷徨う一時,その中継時点なのかもしれない.

世間で大人になるということは,
日常の出来事にすぐに意味が見出せないことや,
些細なことに自分の存在価値が分からなくなることなど,
大したことではない.
そんなことに躊躇い,甘いことを言って自らを慰めるほど,
僕はまだ,自分を諦めてはいない.

流されがちな日常の中で,虚心坦懐に自らを律し続けていたい.
グラスを傾ける毎に,モルトの香が胸を射抜く.

僕は今,どの辺りにいるのだろう・・・
街を車で走り回っていた感覚が,
今とオーバーラップする.
街を行き交う卒業生達・・・
僕はあの頃から,新たになにを卒業できたのだろうか・・
そして,なにを卒業しないままでいるのだろうか.

今年も僕の胸の中に,
真新しい春の風が吹き抜けていく・・・



ダルウィニー
 ハイランド・モルト.穏かで優しい印象のモルト.
 その訳は,仕込みの水,グランピアン山脈の雪解け水が,
 湧き出た小さな泉のものにあるらしい.
 季節の変化から生まれる自然の恵が味わいに活きている.
 ロイヤル・ハウスホールド,ブラック&ホワイトの原酒.