CRAGGANMORE
 

今日は
胸の中だけで泣いた.
胸の中に涙が流れた瞬間,
倖せとは
なにをいうのかが,分かった気がした.



会社をぬけて,映画を観た.
ラブ・ストーリー.
空席がとても目に付く映画館,もちろん,一人きりで.

ラブ・ストーリーは,
この店が開店する15分前に終わった.
映画館からここまで,
歩くにはちょうど良い時間だった.

夕暮の中,僕は気持ちをととのえながら歩いた.

カウンターで一杯のシャンパンの後,
選んだモルトは,クランガンモア.
ふくよかで余韻が甘く,
とても,優しい気持ちになれる.
バーテンダーが丁寧に注いでくれたモルトは,
グラスの中でゆったりとたゆたう.

「目が赤いですよ」
ふいに,バーテンダーが僕に言った.
「えっ・・」
僕は、戸惑った.
バーテンダーは微笑んで,
「ジョークですよ」
と,グラスにモルトを注ぎたしてくれた.
そして,彼はオレンジをスライスし皿にのせ,
「どうぞ」
と,僕の前に置いた.

クランガンモアが,ゆったりと胸に染み込んでいく.
オレンジとあわせると,
ふと,海の随に浮かぶ夕陽を想った.
映画館で涙を流したからだろうか,
胸が暖流に包まれていくように,あたたかい.

倖せは,
誰でも自らの胸の中にある.
けれども,意外に見つけることが出来ない.

人はなんて,
正直になることが,
こんなにも,難しいんだろう.



クランガンモア
 スペイサイド・モルトの代表銘柄.
 華やかさと落ち着き,バランスの良さが幅広く好まれる.
 ゲール語で「突き出た大岩のある丘」.
 誰もが知るオールド・パーのメイン原酒.