CLYNELISH
 

青い空を,ずっと見ていた
今日は,一日中
僕は暫く
空の色がきれいだったことを忘れていた

眺めていた空を
思い出しつつ
グラスの中を見つめる



この店のバーテンダーと僕は,故郷が同じだ.
そして,実はモルトの好みもとても似ている.

僕がクライヌリッシュを選んだ訳は,
名前に惹かれたから.
響きのよい名だ.
名のもつ響きを気にするところも,
バーテンダーと似ている.
「音はとても大事」
と彼は言う.
名前がもつ音.
そして,モルトが奏でる音.
モルトをグラスに注ぐ音.

「モルトをグラスに注ぐ時,
          姿勢を正して耳を傾けてみる」
以前,バーテンダーが言っていたことを思い出す.

クライヌリッシュの音・・・
僕はグラスを傾けながら,
姿勢を正し耳を傾ける.
ひと口,飲んで目を綴じる.
奥行きのある味が,身体に広がっていく.
すると,その先に青天が見えてくる.

日頃僕たち,ふたりとも
故郷のことを語らないけれど.
同じ色の空を気がつかないうちに,
瞳の奥に映しているのかもしれない.

バーテンダーに
昼間,眺めていた青い空のことでも,
話してみようか.

モルトの音は,
いつも聞こえてくるわけではない.
自分の胸の中で
大切にしている「なにか」に
真摯に向き合っている時だけ,
そっと,胸の中に響いてくる.