ARDBEG
 

古くからの付き合いで
独りで酒を飲む時間について
こだわりを持っている友人がいる

酒はいつもモルト
それも,アードベックという
好みの分かれるモルト
僕からみると
彼にピッタリはまるモルトだ


「独りで飲んでいる時は,
   その酒と話しているような気がする」
カウンターで隣に並んだ友人が,そう呟いた.
「酒と語り合うなんてことを思うようになったんだ
   俺も・・」
友人が,こんな渋いことを言うようになったとは,
互いの歳のとり方を考え直さずにはいられない.
「なんだか,あせるな」
僕は,思わず言ってしまった.
「なんでだよ」
友人が,小さな声で呟いた,そして
「お前の方が,幸せだってことだよ」
静かにグラスを置いて,僕に横顔を見せたままで,
少しだけ笑った.

「時にはお二人で召し上がってみては・・」
バーテンダーが,
僕ら二人の間にアードベックのボトルを置いた.
友人は,微笑んで僕の分もストレートで注文した.

アードベックの深く胸に染み込むような味わい.
その奥深い味と薫りのなかに
ふと,かすかに甘さを感じた.
その時,友人の言葉の意味が,
なんとなく,少しだけ分かったような気がした.
隣で,彼はアードベックが輝くグラスに
やわらかな,
とても,やわらかなまなざしを向けている.

好みの酒と語り合う,
それは,夜の静寂が胸に染みるひととき・・
胸の中で語り合うとは,
互い慈しみあうことなのだろう,きっと.